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アイトラッキング vs ヒートマップ

21.12.31

アイトラッキングとヒートマップツールの違い

ユーザー体験を改善する方法として、ユーザーインタビュー、ヒューリスティック分析、行動ログ解析などさまざまなものがあります。それゆえに、どの手法が最適なのか迷ってしまうことも多いでしょう。

この記事では、ユーザビリティ調査において強力な手法であるアイトラッキング調査とヒートマップツール、両者の仕組みや違いについてご説明します。

アイトラッキング調査とは?ヒートマップツールとの違い

本章では、アイトラッキング調査の仕組みやヒートマップツールとの違いについてご説明します。

仕組みとアウトプットのイメージ

アイトラッキング調査の仕組み

アイトラッキング調査とは、特殊な機材を使い、人の目がどう動くかを計測する調査手法です。被験者を用意し、実際にウェブサイトやアプリを用意された環境で見てもらうことで、目の動きを計測します。

アイトラッキング例

アイトラッキング調査を行うことで得られるアウトプットには、以下のものがあります。

ゲイズプロット

ゲイズプロットとは、ユーザーの視線が辿った軌跡を確認できるデータです。画面上でユーザーが注視した箇所に円形のマークがプロットされます。円マークの中には視線が辿った順に番号が割り振られており、この番号を見ることで、ユーザーがどのような流れで画面内の要素を閲覧したかを確認することができます。

ゲイズプロット

AOI(アテンション・オブ・インタレスト)

AOI(アテンション・オブ・インタレスト)とは、UIの要素ごと何を何秒見られているか、数値化されたデータのアウトプットです。ユーザーが特定の部分を長くみていることを示す「フィクセーション」が何回発生したかも確認でき、どの要素がとくに注目されているかもわかります。

attention of interest

以下の記事では、アイトラッキングについてより詳しく説明しています。

アイトラッキングとは

ヒートマップツールの仕組み

ヒートマップツールとは、ウェブサイトにタグを埋め込むことで、ブラウザの挙動を計測・可視化する計測ツールです。ユーザーの視線を計測するわけではありません。

ヒートマップツールには以下のようなアウトプットの種類があります。

  • スクロールヒートマップ
  • マウスカーソルヒートマップ
  • クリックヒートマップ

スクロールヒートマップは、ページのどの高さまでスクロールされているかを表したアウトプットです。類似のアウトプットにアテンションヒートマップがありますが、こちらはスクロール位置の表示時間を表しており、画面内に表示されている時間が長いほど暖色に近くなります。
スクロールヒートマップが下に行くほど寒色に近づいていく一方、アテンションヒートマップは寒色と暖色が交互に繰り返されることがあります。
scroll_heamap and attention_heatmap

マウスカーソルヒートマップは名前の通り、マウスカーソルの移動箇所を可視化したもので、マウスのクリックを可視化したものはクリックヒートマップと呼ばれます。

アイトラッキング調査とヒートマップは、共にユーザビリティ調査に用いられるという点においては似ていますが、計測の方法やアウトプットは異なり、全くの別物です。

計測している対象の違い

まず、アイトラッキング調査とヒートマップツールでは、計測する対象が違います。

アイトラッキング調査では、特殊な機器を使いユーザーに実際にウェブサイトやアプリを見てもらうので、視線の動きを計測することができます。また、視線がどこでどのくらいの時間止まったか(フィクセーション)も計測できます。

さらに、視線が動いた順番までも計測することができるため、どの情報をどの順番で得ているのかがわかります。視点が移っていくプロセスを見ることで、ユーザーがUIを操作する際のメンタルプロセスを想像することができます。

コンバージョンに至るまでにどのようなプロセスを経ているのか、何が障壁になっているのかなどを計測されたデータから想像し、UI改善に活用することができます。

他方、ヒートマップツールではスクロールやクリック・タップなどブラウザの動作のみを測定します。ユーザーの視線の動きは測定しないので、データを見てもユーザーがどのような考えを持っているか、そのメンタルプロセスを想像するのは困難です。わかるのはあくまで、どこまでスクロールされているか、クリックされているか、ということだけです。

「マウスカーソル」ヒートマップでは、ユーザーの視線は分からない

先述した通り、ヒートマップツールには「マウスカーソルヒートマップ」というものがあります。マウスカーソルの動きが分かるこのヒートマップを用いれば、視線の動きも分かるのでは?と考えられがちですが、これは誤りです。

第一に、ヒートマップツールでは、スマホでウェブサイトを閲覧するユーザーのマウスカーソルの動きを計測できません。スマホにそもそもマウスカーソルが存在しないためです。スマホで閲覧するユーザーに関しては、スクロールとタップしか計測できないのです。スマホユーザーの視線の動きを、ヒートマップツールで計測することは原理上不可能です。

たしかに、パソコンを利用するユーザーであれば、ヒートマップツールを利用することでマウスカーソルの動きは計測できるかもしれません。それでは、マウスカーソルの動きからユーザーの視線の動きや思考も想像できるのでしょうか?

答えは NO です。

マウスカーソルの動きとユーザーの視線の動きには関連がないことは、Googleのシニア UX リサーチャー、Anne Aula 氏の調査結果によって明らかにされています。Anne Aula 氏が導き出した調査では、

  • マウスカーソルと視線の動きに垂直方向の相関がない人は 94%
  • マウスカーソルと視線の動きに水平方向の相関がない人は 81%

という結果が示されています。つまり、マウスカーソルと視線の動きにはほとんど相関性がないのです。

また同調査では、

  • 10% の人はリンク上にマウスカーソルを合わせたまま、他の情報を読み進めている

という結果も確認されており、マウスカーソルと視線が非同期的に動いていることが分かります。

以上の結果から、マウスカーソルの動きからユーザーの視線の動きを推測することは難しいと言えます。
よって、ユーザーの視線の動きを追うためにはアイトラッキング調査を行うのが最良の手段となります。

ヒートマップツールとアイトラッキング調査のメリット/デメリット

両者の仕組みや計測対象の違いが分かってきたところで、今度はそれぞれのメリット・デメリットをご紹介します。

ヒートマップツールのメリット

ヒートマップツール最大のメリットは、なんと言ってもその手軽さにあります。アイトラッキング調査よりも費用が安く、マーケティング関連予算が限られている事業者とっては、ヒートマップツールが最適な選択肢になるでしょう。

簡易なヒートマップツールであれば無料のものもありますし、高機能なヒートマップツールでも数万円程度あれば利用可能です。他方、アイトラッキング調査は最低でも50万円程度以上は費用がかかります。
そのため、費用面ではヒートマップツールのほうが圧倒的に安く済ませることができます。

また、サンプル数が確保しやすい点もヒートマップツールのメリットとして挙げられます。ヒートマップツールはブラウザの動きを計測することでアウトプットを得るため、ウェブサイトを訪問するすべてのユーザーが計測対象になり得ます。

他方、アイトラッキング調査では、調査を行うたびにモニターを募集し、被験者を収集する必要があります。被験者の目を専用のアイトラッキング機材で物理的に計測しなければならないため、被験者には調査実施会場に足を運んで貰う必要もあります。

このようにアイトラッキング調査においては被験者を用意する手間がかかるため、手早く調査を済ませたい方にとってはヒートマップツールが現実的な選択肢になるでしょう。

ヒートマップツールのデメリット

ヒートマップツールの大きなデメリットは、ユーザーの思考を推測する精度が低いという点です。

人間は、目で「見た」情報を元に「考え」、そして「行動」を起こします。

ヒートマップツールでは、ユーザーが思考した結果の「操作(行動)」しか分からないため、そこから思考を推測するのは難しいのです。
一方、アイトラッキング調査においては、思考した結果の「操作」に加えて、「何を見て」その思考に至ったか、その要因まで計測することができます。
そのため、アイトラッキング調査では、思考の「要因」と「結果」の双方から、高い精度で思考を推測することができます。

ヒートマップツールでは、片手落ちの根拠でユーザーの思考を推測せざるを得ないため、誤った解釈で UI の変更を行ってしまう危険性すらあることは認識しておかなければなりません

もう一つのヒートマップツールにおけるデメリットは、大半のツールにおいてスマホアプリが計測できないという点です。

ニールセン デジタル株式会社による「スマートフォン利用時間シェア」の調査によると、スマホの利用時間シェアは、

  • 2018年12月時点は「アプリ」が84%、「ウェブブラウザ」が16%
  • 2019年12月時点は「アプリ」が92%、「ウェブブラウザ」が8%

となっており、アプリの利用割合が年々増加していることが分かります。

ゆえに多くのスマホ利用者は、ブラウザではなくアプリを利用している時間のほうが多いと言えます。
つまり、スマホアプリを計測できないヒートマップツールでは、スマホ利用データの大半が収集できない、ということになります。

また、ヒートマップツールはJavaScriptタグをウェブサイトに実装しなければ利用できません。社内にJavaScriptエンジニアやタグマネージャの扱いに慣れた担当者がいればいいものの、そうでない企業ではタグ実装を行うだけでも工数やコストが発生します。

アイトラッキング調査のメリット

アイトラッキング調査の最大のメリットは、ユーザーが画面からどのような情報を得ているかを確認でき、思考を推測することができる点です。アイトラッキング調査では、他の手法では知り得なかった重要な示唆を得ることができるため、ユーザビリティ改善において大きな価値をもたらしてくれます。

またアイトラッキング調査では、スマホアプリでもユーザーの目線が計測可能です。前述したように、今やスマホユーザーのほとんどがアプリ利用に多くの時間を費やしています。したがって、ユーザビリティ調査をする際にスマホアプリを利用するユーザーの目線データは非常に重要です。

また、アイトラッキング調査ではJavaScript等でタグを埋め込む必要はありません。当然、プログラミングの知識等も不要ですので、社内にエンジニアがいなくても調査が実施できる点もメリットです。

アイトラッキング調査のデメリット

アイトラッキング調査のデメリットは、ヒートマップツールに比べて費用が高いことです。ヒートマップツールは簡易なものでは無料〜数千円/月、機能面で充実したものでも数万円〜10万円/月程度で利用可能です。しかし、アイトラッキング調査には最低でも50万円程度の費用がかかります。手軽にユーザビリティ調査を実施したい方には向きません。

また、サンプル数が限られる点もデメリットです。アイトラッキング調査では調査対象者が数名、多くても数十名です。ウェブサイトの閲覧ユーザーすべてが対象となるヒートマップツールに比べると、どうしても対象者数は少なくなります。

Convpath のアイトラッキング調査サービス

気軽に調査を実施できるヒートマップツールと比べると、やや割高に感じてしまうアイトラッキング調査ですが、ユーザビリティ調査において非常に有益な示唆を得ることができます。

ヒートマップツールでの改善に限界を感じている…
大事なリニューアルに失敗したくない…
という方は、是非一度アイトラッキング調査をご検討ください。

弊社アイトラッキング調査紹介ページ

   
大谷恭平

大谷 恭平

ソフトバンク株式会社退社後、スマホアプリの受託開発を通じて独学で UI/UX を学ぶ。CXL 社や Invesp 社など米国 CRO 代理店よりユーザビリティのノウハウを吸収しながら、アイオイクス株式会社にて CRO サービスの立ち上げを行う。 データベースや解析ツールのログ分析と、ユーザビリティ調査を組み合わせたコンサルティングが得意。 2021年4月、株式会社Convpath を設立。代表取締役に就任。

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