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CRO と グロースハックの違い

22.03.29

CRO (コンバージョン率最適化) とグロースハックの違い

最近 CRO (コンバージョン率最適化) という言葉を耳にする機会が少し増えてきました。

CRO とよく似た言葉として、「グロースハック」という言葉があります。
CRO とグロースハックは非常によく似ている部分もありますが、そのルーツ や ビジネスで果たす役割、成長へのアプローチ方法などにおいて異なる部分があります

これらの言葉が生まれたアメリカで影響力のある専門家たちの考えも参考にしつつ、ふたつの違いをまとめていきます。

専門家

  • Sean Ellis 氏 – Qualaroo 創業者
  • Peep Laja 氏 – CXL 創業者
  • Khalid Saleh 氏 – Invesp 創業者
  • André Mory 氏 – konversionKRAFT 創業者

参考書籍

記事の要点

  • グロースハックは スタートアップ界隈で生まれた言葉。獲得からプロダクト開発まで幅広くスピーディーに改善を行う概念
  • CRO (コンバージョン率最適化) は ECサイトを改善する営みから生まれた言葉。既存のビジネスモデルに対して、継続的な最適化のプロセスを実装する取り組み
  • 両者の違いは少しずつ薄れてきている。言葉の違いよりも、組織に合わせた改善プロセスづくりが重要

CRO という用語の認知度が上がってきている

日本では、まだあまり認知度が高くない CRO ですが、発祥の国アメリカでは最近認知度が徐々に高まってます。

conversion rate optimization vs growth hacking

Google Trends より。青がグロースハック(growth hacking)、赤がコンバージョン率最適化(conversion rate optimization = CRO)

アメリカでのグロースハック (Growth Hacking) という言葉の歴史は古く、2011 年ごろから本格的に認知が広まっていきました。

一方のCRO (Conversion Rate Optimization) も、同時期から使われ始めていたものの、当時はグロースハックの方がより広く使われている言葉でした。

しかし上記の Google トレンドの様子を見ると分かるように、2017 年頃から両者の差は縮まりはじめ、最近ではほぼ同水準の検索ボリュームにまでなっています
※執筆時(2022年2月頃)

グロースハック と CRO はとても似ている

グロースハック と CRO は、様々な面で共通点を持っています。

まず共に収益の拡大を目的として、詳細な分析を行い A/B テストなどを用いて検証することで成長を実現します。
また旧来の機能ごとに分断された組織の壁を乗り越えて、組織横断的なプロジェクト推進を推奨している点などもグロースハックと CRO に共通しています。

cross functional team activity
しかしながら、別の角度で見ると両者にはいくつかの違いがあります。

グロースハック と コンバージョン最適化の違い

ルーツの違い

まず、どこで生まれた言葉なのか という点で違いがあります。

グロースハックはスタートアップ界隈で生まれた言葉

グロースハックという言葉の起源として、2010 年前後に 当時スタートアップの Dropbox で マーケターをしていたショーン・エリス(Sean Ellis)氏が使い始めたという説が有力です。

startups

Elis 氏の著書「Growth Hacking」の中では、

Perhaps more important, companies’ growing ability to collect, store, and analyze vast amounts of user data, and to track it in realtime, was now enabling even small start-ups to experiment with new features, new messaging or branding, or other new marketing effortsーat an increasingly low cost, much higher speed,and greater precision.
The result was the emergence of a rigorous approach to fueling the rapid market growth through high-speed, cross-functional experimentation, for which soon I coined the term growth hacking.

大量のデータを蓄積、保存、そして分析し、リアルタイムでトラッキングする企業の能力の成長は、小さなスタートアップでさえ、新しい機能やメッセージング、ブランディング、または他のマーケティングの取り組みの検証を、驚くほど低いコスト、速いスピード、そして高い精度で実現できるようにしている。
その結果、ハイスピードで横断的な検証を行うアプローチが誕生し、私はこれをグロースハック (Growth Hacking) と呼ぶようになった。

と記されており、グロースハックという言葉がスタートアップ出身の Elis 氏によって生み出されたことが明示されています。
新しいビジネスを生み出そうとするスタートアップの精神が、グロースハックの根底にはあるのです。

CRO は E コマース業界で生まれた言葉

一方の CRO(コンバージョン率最適化)のルーツに関しては諸説ありますが、その取り組み自体は IT 革命 (ドットコムバブル) 後の EC サイト興隆期に始まったという説が有力です。

Wikipedia では、

Online conversion rate optimization (or website optimization) was born out of the need of e-commerce marketers to improve their website’s performance

オンラインでの コンバージョン率最適化(もしくはウェブサイト最適化)は、Eコマースのマーケターの ウェブサイトを改善したい というニーズから生まれた

と書かれており、CRO は EC サイトにおける改善の取り組みに端を発すると考えられます。

1995 年に最初の EC サイトが誕生 してから今日に至るまで、多くの EC サイトが生まれては消えていきました。
※著書「Conversion Optimization」 P7 より
商品をオンラインで売ることのマーケティング的な難しさや、クレジットカードを知らない企業へ渡すことへのためらい 等の障壁を乗り越えるために様々な改善が行われ、それが CRO のルーツになっています。

今では BtoB でよく見られるリード獲得型の Web サイトから SaaS 系サイトまで、様々な領域で CRO が行われていますが、Web のコンバージョンとビジネスのキャッシュポイントが近い EC サイトだからこそ CRO が最初に発展したのかもしれません。

新しいプロダクトの創出などまでは踏み込まず、既存のビジネスを市場のニーズやユーザーに対して最適な形にしていくことが CRO の果たす役割と考えられます。

スタートアップだからグロースハック、既存ビジネスモデルは CRO と一概には言えませんが、これらは異なるルーツを持った手法であると言えます。

② 携わる範囲の違い

ユーザーを獲得してから収益化を実現するまでのプロセスを表すフレームワークとして、AARRR モデルは有名ですが、グロースハック と CRO ではそれぞれのプロセスへの関わり方が異なります。

AARRR モデルといえば Acquisition(獲得)、Activation(活性化、オンボーディング)、Retention(継続)、Referral(紹介)、Revenue(収益) の 5 つからなるフレームワークです。
AARRR

CXL 社の Peep Laja 氏は Sean 氏とのオンラインコミュニティ上でのやりとりで、CRO は、Activation(活性化)、 Retention(継続) そして Referral(紹介) にかかわるが、トラフィック獲得(≒Acquisition) や ビジネスモデルの創造には 携わらない、と発言しています。
AARRR

Peep 氏の同発言内ではさらに、グロースハッカー(グロースハックを行う人)は、ユーザー獲得、そして時にはビジネスモデルそのものの創造から関わっていくのが違いであると述べられています。

AARRR

また、Sean 氏の著書「Hacking Growth」内でも、

Growth Hacking is not just a tool for marketers. It can be applied to new product innovation and to the continuous improvement of products as well as to growing an existing customer base.
グロースハッキングはマーケター専用のツールではない。既存顧客の育成に加えて、新しいプロダクトの開発や継続的なプロダクト改善にも適用することができる

とグロースハッキングが単なるマーケティング手法ではないと説明されています。

ゆえに CRO に比べて、グロースハックの方がより幅広くビジネス全体にコミットを行う概念と考えられます。

③ アプローチの違い

ここまでグロースハックと CRO の 2 つの違いを紹介してきましたが、著者自身が感じている両者の最も大きな違いは、改善へのアプローチ、特に検証のスピードに対する捉え方の違いです。

グロースハックはより検証のスピードを重要視する

Sean 氏の著書「Hacking Growth」のチャプター「THE NEED FOR SPEED」では、

Growth hacking is also the answer to the urgent need for speed experienced by all businesses today.
グロースハックは、昨今の全てのビジネスで求められているスピードに対する答えである

This need for speed is why a key feature of growth hacking is to experiment at the fastest possible tempo.
・・・ではスピードが求められており、グロースハッキングでは最大限速いペースで検証をすることが重要である。

と書かれており、グロースハックにおいてスピードが重要であることが繰り返し説明されています。

改善をスピーディーに行うための方法として、同著内ではグロースハッキングプロセスを紹介しています。
これは、Analyze (分析)、Ideate (アイディア出し)、Prioritize (優先度付け)、Test (検証) からなる一連のグロースハッキングの取り組みの流れをプロセス化したものです。

AARRR

以上の点からグロースハックは、いかに早く改善プロセスを実行し、ビジネスを成長させるかにフォーカスした短期目線のアプローチであると考えられます。

CRO では堅実な改善を重要視する

一方の CRO は、あえて誤解を恐れずにいえば、グロースハックのように早く成果をあげることに対して、重点は置いていません。

konversionsKRAFT 社 創業者の André Mory 氏が、

They (A lot of people) see Conversion Optimization as a task that means implementing a continuous optimization process inside your company.
多くの人はコンバージョン最適化を継続的な改善のプロセスを企業に導入することだと考えている

指摘している通り、CRO は一過性ではなく継続的なプロセスの導入を行うものとして認知されています。

また、CRO 代理店 Invesp 創業者の Khaild 氏は 書籍「Conversion Optimization」の中で、

It (CRO) is a long term effort when done correctly.
CRO は正しく行われるほど、長い時間がかかる取り組みである

と述べています
※「Conversion Optimization」 序章 P7より

Invesp 社は CRO を実施するフレームワークとして SHIP メソッドを提唱していますが、これは先ほどのグロースハックプロセスと非常に似ています。
Scrutinize(調査)、Hypothesize(仮説設計)、Implement(検証、実装)、Propagate(展開)の4つのステップと分かれており、先ほどのグロースハックプロセスと同様に、改善を行うための取り組みを体系化したものです。

改善プロセスにおける違い

グロースハッキングプロセス、CRO SHIP メソッドは、共に事前の調査や改善案を仮説として定義することの重要性を説いていますが、両者を比較してみると、改善へのアプローチの違いが見えてきます。

AARRR

「分析を元に、仮説を設計し優先順位を決め、A/B テストで検証をする」という点は両者に共通しています。

しかし、CRO の SHIP メソッドでは、検証までが完了したのちに実行される Propagate(展開) というステップが存在します。

Propagate(展開) は、検証結果を分析し次のアクションを決めるための取り組みです。

テスト結果を様々な観点(セグメント)から分析し、期待していた結果が得られなかった時には、テストを実施するに至ったまでのプロセスを振り返り、ネクストアクションへと落とし込みます

例として「A/B テストの結果 CV 率が 3 %下がってしまった」 というシチュエーションを見てみましょう。

AARRR

このような結果になってしまった場合、以下のように次のアクションを探っていきます。

「1.調査」を振り返る

AARRR

まず、A/B テストを実施するきっかけとなった分析内容に、誤りや盲点があった可能性があります。分析内容の見直しや別観点からの分析を行い、見落としがないかを確認しましょう。

テスト前の分析 深堀りの分析(ネクストアクション)
Google Analytics で見ると、過去3ヶ月間でのカート画面内離脱率が 60% と高かった セグメントの条件などに誤りはないか確認
期間を変更してみても同じ傾向が見られるか確認
スクロールヒートマップでは、「会計へ進む」までスクロールしていた人は 50% だった アテンションヒートマップで CTA 箇所の閲覧時間を確認
クリックヒートマップから、ページ内でよくクリックされている箇所を確認

抽出したデータに誤りや偏りがなかったかを今一度確認します。テスト前に深く分析できていなかったところがあればより深く分析をし、気づきがあれば新たな仮説として検証を検討しましょう。(例:クリックヒートマップを使い、会計へ進まなかったユーザーのページ内行動を調査するなど)

「2.仮説設計」を振り返る

AARRR

問題点と要因の考察が正しくても、改善案がそれを解決できるものではなかったのかもしれません。他に考えうる仮説があれば、別のテストで検証を行います。

仮説 テストした仮説 仮説のピボット(他に考えうる可能性)
考察 分析から「会計へ進む」ボタンが認知できていないと推測 他の商品と迷っている可能性
配送料や表示情報が不十分である可能性
とりあえずカートにいれたものの購入意欲は低い可能性
改善案 ファーストビューに CTA を入れることで、CV率が上がる 下部のボタンがなくなったことで CV 率が下がった可能性
ボタンの位置ではなく、色が原因で押下されていなかった可能性

「分析を元に得た問題点の考察」と「その問題点を解決するための改善案」それぞれについて他の可能性を思案します。必要に応じて深堀の分析を行い、新たな考察や改善案が得られたならば、仮説をピボットして再度検証を行いましょう。

「3.実装(検証結果)」を振り返る

AARRR

「ユーザー全体では -3% と CV 率が下がってしまったが、特定のセグメントでは違う結果が出ている」という可能性もあります。
例として、デバイスの切り口で分析した時、

デバイス オリジナル CV 率 テストパターン CV率 オリジナル vs テストパターン
モバイル 2.0% 2.14% +7%
(= 2.14%/2.0% – 1 )
デスクトップ 3.0% 2.7% -10%
(= 2.7%/3.0% – 1 )

のように、モバイルデバイスを利用しているユーザーにおいては、テストパターンがオリジナルの CV 率を大きく上回っていることがあります。この場合、モバイルユーザーに対象対象を絞って、A/B テストを実施することで、有意性を検証することが可能です。

デバイスの他にも、新規ユーザーと既存ユーザー、カートへの商品追加数、価格帯など、思いつく限りの切り口からテスト結果を分析し、有意な結果が出ているセグメントがあれば、ターゲットを絞って再度検証を行う余地があります。

以上のように、SHIP メソッドでは 1 回の改善プロセスを単体では完結させず、有機的に 次のプロセスへ Propagate(展開) するところまでをプロセスに内包しています。

CRO は短期的な成果ではなく、継続的な改善プロセスを生み出すことに重点をおいた中長期的なアプローチであることが、グロースハック との違いと考えられます。

まとめ

ご紹介したように、グロースハックと CRO はいくつかの点で違いがあります。
しかし実際のところでは、グロースハックのノウハウを大企業が取り入れたり、CRO ストラテジストが獲得まで携わったり、その違いは徐々に薄れてきているようです。

ですが本質的には、2つの概念に違いがあるということよりも、改善のアプローチには様々な考え方がある、という点が重要ではないかと考えます。

昨今ではビジネスの成長に求められるスキルが多様化し、優秀な人材の囲い込みが困難になっています。
そんな時代だからこそ、盲目的に目の前の KPI(事業指標) の改善に取り組むだけでなく、組織や成長フェーズにフィットした改善スタイルを確立する必要性が高まっているのではないでしょうか。

   
CRO
大谷恭平

大谷 恭平

ソフトバンク株式会社退社後、スマホアプリの受託開発を通じて独学で UI/UX を学ぶ。CXL 社や Invesp 社など米国 CRO 代理店よりユーザビリティのノウハウを吸収しながら、アイオイクス株式会社にて CRO サービスの立ち上げを行う。 データベースや解析ツールのログ分析と、ユーザビリティ調査を組み合わせたコンサルティングが得意。 2021年4月、株式会社Convpath を設立。代表取締役に就任。

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